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部下からのパワハラが起こる7つの原因と企業としてとるべき5つの対策とは?

2020年に「パワハラ防止法」が施行されました。当初は大企業のみが義務化され、中小企業は努力義務となっていましたが、2022年4月から中小企業においても義務化されました。

全ての企業がパワハラについて考え、義務を遵守しなくてはいけない状況に変わっています。

パワハラというと、上下関係が元にあり、上司から部下にパワハラが起きるイメージをされる方が多いのではないでしょうか。

しかし、パワハラの中には「上司から部下」だけでなく、「部下から上司」「同僚同士」によるハラスメントも報告されています。

今回は、厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」の裁判事例でも取り上げられている部下から上司に起こるパワハラについて、原因と企業が取るべき対策をまとめました。

参照:【第4回】「部下の嫌がらせ・会社調査とパワハラ」 ― 渋谷労基署長事件|裁判例を検索しよう|裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト- (mhlw.go.jp)

目次

部下からのパワハラとは

パワハラというと上司から部下に対して起こるイメージを持っている人も多くいます。

ここでパワハラの定義を確認してみましょう。

パワハラとは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されています。

参照:ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置|あかるい職場応援団 

ここでポイントになるのが「優越的な関係」です。

上下関係も優越的な関係に含まれますが、部下の立場でも優越的な関係に該当することがあるのです。

厚生労働省の指針では

  • 部下が業務上必要な知識・経験を持っていて、部下の協力を得なければ上司が業務を円滑に遂行できない場合
  • 部下からの集団による行為で、上司が抵抗・拒絶するのが困難である場合

などは、部下が上司に対して優位に立つため「優越的な関係を背景とした言動」に含まれるとしています。

参照:厚生労働省労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

部下から上司に嫌がらせの言動を取る行為は、パワハラの行為にあたり、逆パワハラとも言われています。

昨今、部下からの逆パワハラによってうつ病などの精神疾患に悩む上司も少なくありません。

ここからは、部下からのパワハラが増加している背景や具体例についてご紹介します。

部下からのパワハラが増加している背景

部下からのパワハラは近年増加していると言われています。

厚生労働省が平成28年に行った「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」では、パワハラに対する相談件数は、ハラスメントの中で最も多くなっています。

パワーハラスメントの相談内容は「上司から部下へ」が圧倒的に多く、「先輩から後輩へ」「正社員から正社員以外へ」と続いています。つまり、上位者から下位者への行為が大半を占めています。

ただ、「部下から上司へ」や「後輩から先輩へ」「正社員以外から正社員へ」のパワハラに対する相談もあり、実際にパワーハラスメントに該当した報告があります。

参照:データで見るハラスメント|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 

「部下から上司へ」といった逆パワハラが増えてきた背景には、企業の評価に対する変化が関係していると考えられます。

以前は年功序列での評価が主流でしたが、昨今は実力で評価する企業も増えてきています。

そのため、上司よりも実力の高い部下が現れ、上司に反発したり軽視する場合があります。

また、360度評価などの評価方法を取り入れる企業も増え、部下が上司を評価する対象とみなし始めたことも原因であると考えられます。

部下が上司を評価することによって強気になったり、上司は評価を気にして低姿勢になるなど、立場が逆転するケースがあります。

これらの背景によって、上司と部下の立場が以前より複雑化し、逆パワハラが起こると考えられています。

部下からのパワハラの具体例

ここからは部下からのパワハラの具体例を5つご紹介します。

1.仕事の指示に耳を傾けない

上司が部下に仕事を指示しても、耳を傾けず指示に反発する場合があります。

以前は、上の命令は絶対といった体育会系のような上下関係もありました。昨今では、部下でも発言ができる事が風通しの良い職場として考えられています。

そういった時代の変化もあり、部下が上司に対し「できません」と仕事の指示を断ったり、「それは私の仕事ではありません」と反論するケースが報告されています。

その結果、上司は円滑に仕事を進めることができなくなる場合があります。

2.パソコンやITシステムに疎い上司を無能扱いする

以前に比べ、どのような仕事においてもパソコンやITシステムが導入されています。仕事においても、今までは紙での対応だったものがペーパーレス化し、それに伴うITシステムがどんどん導入されています。上司よりも部下の方がITに強いことは珍しくないでしょう。

そんな状況についていけない上司を「もう自分がやるからいい」「こんな簡単なこともできないのか」と心無い発言をし、上司を無能扱いする場合があります。

これはテクノロジーハラスメントにも該当し、部下から上司へ起こりやすいハラスメントの1つです。

3.上司よりも高年齢の部下による威圧行為

年功序列の崩壊により、上司は自分よりも高年齢の部下を持つ場合もあり、部下は年下の上司に対して威圧的な行為をとることがあります。

近年、定年延長や再雇用制度などにより、かつての元上司が部下になることもあります。

特に飲食業界などでは、若い正社員の店長が、熟練の年上のパート社員と働くケースも多々あります。

年長者に対して敬意を払うことは大切ですが、業務の指示命令に従わない年上部下を野放しにしておくと、組織が崩壊します。

4.上司の指示を集団で無視する

部下が結託して集団になり、上司に対し逆パワハラを起こす場合があります。

360度評価などで部下同士が示し合わせて上司の評価を故意的に低くつけたり、新しく赴任してきた上司へ集団で誹謗中傷や暴言を言ったり、無視して指示に従わない場合があります。

一般的には、部下は上司よりも弱い立場にあります。そのため、部下の言動が「優越的な関係を背景とした言動」として認められるケースは、1対1の関係ではなく、複数の部下が上司に対して行った言動の方が多いと言われています。

参照:逆パワハラとは? 発生する原因と上司側の対処法を事例とともに解説 | NISSAY Business INSIGHT 

5.上司に暴力をふるう

上下関係関係なく、暴力を振るうことはパワーハラスメントに該当します。

パワハラの相談内容では、精神的な攻撃が最も多く報告されていますが、身体的な攻撃も報告されています。物を投げつけられる、唾を吐きかけられる、ネクタイを引っ張られる、叩かれることがあります。

部下からのパワハラを放置するリスク

部下からのパワハラを放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。起こりえる5つのリスクについて解説していきます。

1.職場環境の悪化による生産性の低下

パワハラを放置することで職場環境が悪化し、上司がうつ病などの精神疾患を患ってしまうと生産性の低下にも繋がります。

カナダ・トロントの「依存症・メンタルヘルス研究センター」(CAMH)のキャロリン デワ氏らの研究では、適切なメンタルヘルスのケアを行わないでいると、生産性は33%も低下することが明らかになっています。

参照:うつ病が生産性を低下 半数がメンタルケアの必要を認識していない

また、被害者や加害者だけでなく、他の従業員にとっても、悪化した職場環境で働くことは仕事に対するモチベーションの低下を引き起こし、生産性の低下に繋がります。

2.退職者の増加による人材不足

休職に留まらず、退職者を増加させてしまうと人材不足に繋がります。

さらにパワハラを放置しておくと、こんな環境では働けないと思う従業員が増加し、人材の流出に繋がります。人材不足に陥ると、誰かがいなくなった人の代わりに実務をこなす必要があります。特に上司が代わりに行う場合は、管理職としての部下指導が不十分になることもあります。

退職者が増加すると、人材が不足するだけでなく、仕事の質が下がり、企業としての生産性も低下すると言えます。

3.企業イメージの低下と採用コストの増加

ハラスメントの被害者から、損害賠償請求などの民事責任や刑事責任を問われると、企業イメージの低下や会社の信用に繋がります。

企業のイメージが低下してしまうと、就職活動中の学生や求職者が採用試験を受けてくれない、内定を出しても来てもらえないことなどが考えられます。

その場合、採用コストの増加に迫られます。

4.企業イメージの低下と売上の低下

企業イメージが低下すると、転職を考える社員も増えてくるのではないでしょうか。

退職者を増やすことによって生産性の低下から売り上げの低下に繋がる可能性があります。

またハラスメントの事例がメディア等で取り上げられると、消費者の企業イメージが低下し、直接売上の低下に発展する恐れがあります。

5.安全配慮義務違反による損害賠償リスク

企業には使用者責任があり、従業員に対して「職場環境配慮義務」などが課せられています。従業員がハラスメントによって損害を与えられた場合、「個人間のトラブルだから会社には関係ない」といった考えは通用せず、法的責任が問われることもあります。

パワハラの程度や状況によっては、数千万〜一億を超える損害賠償を請求される可能性もあります。

部下からのパワハラが起こる7つの原因

部下からパワハラが起こる原因を7つご紹介します。その背景には、基本的な信頼関係やマネジメント能力なども挙げられますが、社会の変化が大きく関与しています。

1.部下との信頼関係の欠如

部下と円滑なコミュニケーションが取れていないと、お互い仕事を行う上で不信感がうまれる可能性が高まります。不信感を持ったままの状況では、信頼関係を構築することができません。

上司が部下を信頼していなかったり、相手を傷つける言い方をするなど、気づかないうちに不快感を与え、部下がハラスメンを起こす原因を作っているかもしれません。

平成28年厚生労働省の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、最もパワハラが起きやすい職場の特徴として、部下と上司のコミュニケーションが少ない職場が挙げられています。

信頼関係を結べていないと、このようなトラブルをより引き起こす可能性が高くなります。

2.上司のマネジメント能力の欠如

上司のマネジメント能力が欠如していると、部下は適切な管理・指導がされず不満を持ち、上司を軽視する傾向にあります。

上司の指示が的確でなかったり、問題のある部下を放置して指導しないでいると、職場環境の雰囲気が悪化し、部下からのハラスメントが起きる原因となります。

特に、部下への負担が大きい職場環境では、上司のマネジメント能力がより重要です。

3.ITスキル等、経験値や能力値の逆転

ITスキル等に対し対応能力が逆転することは、テクノロジーハラスメントとして、部下から上司へ起こりやすいハラスメントの1つです。

また、実力至上主義や雇用延長などで年上部下や、かつての上司だった部下を持つ場合、場合によっては経験値や能力値が逆転することがあります。部下から上司の能力が低いと判断されると、ハラスメントを生む原因となります。

4.ハラスメントに対する知識の欠如/社内教育の不足

部下のハラスメントに対する知識や教育が欠如し、どのような言動がハラスメントにつながるのか理解できていないと、自分でも気づかないうちにハラスメントの原因を作ってしまう場合があります。

社内でハラスメントの研修体制が整っていないと、部下だけでなく、上司や周りの従業員にも影響を及ぼします。部下や従業員はハラスメントの基準を理解することができず、上司は適切な指導ができないことで、職場環境を悪化させるケースが考えられます。

社内全体でハラスメントの知識を適切に身につけられる機会が求められます。

5.社会の価値観の変化

労働者は、実力至上主義の評価、定年退職の年齢引き上げ、再雇用制度の充実、ITシステムの導入など、長く働いている中で社会の変化をたくさん受けています。

他にも「以前は許されていたことでも、今はパワハラに該当する恐れがあり、部下に指導しにくくなった」、「以前は上司に逆らえなかったが、今は部下からも発言ができる」など多様化に合わせて社会の価値観も大きく変化しています。

6.経営者の姿勢

従業員数が増えると、経営者は一人ひとりの従業員を管理するのが難しくなります。経営者が上司に部下の管理を任せきりにしてしまうと、上司が孤立し、逆パワハラが発生しやすくなります。

昨今、人員削減を行う企業も多くあり、人材が以前より不足した場合、より上司に部下の管理を任せきりになってしまいます。

また、経営者が上司の指導力を信頼せず、自分だけで指揮を取ってしまう場合もあります。その場合、部下は経営者と同じように上司を信頼しなくなり、軽視するようになるのです。

7.従業員の立場が強くなった

部下によるパワーハラスメントが起きる原因の1つに、労働者の立場が強くなったことが挙げられます。

違法な退職勧奨あるいは不当解雇は従業員から訴えられることがあるため、会社側は簡単に従業員を解雇できません。組合等の力もあり、以前よりも労働者の立場は強くなっています。

そのような状況下で、ブラック企業の社会問題化と同時に、パワハラがメディアで取り上げられたことで、部下が過剰に権利を主張するケースがあります。労働者の地位であることを逆手に取ることで、何事もハラスメントだと訴え、過剰に権利を主張する従業員が増えています。

企業が部下からのパワハラを予防する上で効果的な5つの対策

令和2年度の厚生労働省の調査では、パワハラに対する対策は従業員が1000人以上の企業に比べ、300人以下・100人以下の企業はまだまだ対策に不十分な点も多く、業種によっても対策への取り組み度合いは異なります。

これから対策を強化しようとお考えの際、お役立ていただける部下からのパワハラを予防するうえで効果的な対策を5つご紹介します。

参照:令和2年度厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書

1.ハラスメントの研修・教育を実施する

まずは従業員がハラスメントに対し、学ぶことが大切です。

近年ハラスメントは多様化しており、自分では気づいていないうちにハラスメントの原因を作っているかもしれません。どこからがハラスメントなのか、何がハラスメントなのか改めて学ぶ場を設け、社内で研修や教育を実施しましょう。

企業を対象に行った調査では、取り組みによりパワーハラスメントが減少した1番の理由に「パワーハラスメントに対する認識・理解が進んだから」が挙げられていました。

外部の研修サービスや専門家を活用しながら実施し、形だけの実施にならないよう、組織全体で意識を高める必要があります。

2.専門の相談窓口を設ける

令和2年度の調査において、ハラスメントの対策の1つである相談窓口の設置と周知に関して、従業員数が1000人以上の企業では98%の設置率に比べ、300人以下の企業では80%、100人以下の企業では55%という結果でした。

相談窓口の担当者が適切に対処できる対応まで行えている企業は、さらに少ない結果でした。

社内の窓口に限らず、社員が相談する際に不利益を被らない様に社外の相談窓口も設置し、弁護士などの専門家に任せている企業もあります。直接対面で話す以外にメールやチャット、Zoom対応を取り入れるなど、従業員が相談しやすい工夫も大切です。

参照:令和2年度厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書

3.部下の注意指導・部署移動を行う

上司が部下と話し合い、注意指導を行っても改善が見られない場合、一人で抱え込まず、人事担当者や上層部に状況を相談してみましょう。必要があれば該当者の部署移動を行うことで、問題が解決する場合もあります。

4.改善が見られないときは懲戒処分を検討する

様々な対策を行っても改善が見られない場合、懲戒処分を検討する必要があります。

初めから懲戒処分は難しいですが、再三注意した結果、改善が見られない場合、ハラスメントの内容によっては減給や出勤停止などの選択肢が考えられます。

企業は、就業規則の懲戒の事由に、職場のハラスメントに対する懲戒処分の判断要素を明らかにし、従業員へ周知する必要があります。

令和2年度の調査において、就業規則へ規定し、周知・啓発している企業は従業員数が1000人以上の企業で88%に対し、300人以下の企業では65%、100人以下の企業では55%という結果でした。人数が少ない企業ほど、これからの対策が必要です。

参照:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!

5.部下に対する注意・指導の記録を残す

会社の懲戒処分に対し不服を申し立て、部下が調停や訴訟など外部の手続きを行った際、記録を残していることがポイントとなります。

どのような経緯で至ったのか、時系列で分かるように記録を残し、メールやSMSなどのやり取りの履歴や報告書等を残しておくと後で証拠として提示することができます。

企業がパワハラ事例に対し実態を把握する上で最も課題として感じることに、「被害者や加害者等の証言が一致しないこと」が挙げられています。

「言った」「言ってない」で争論になることが多く、口頭のみで話をした際、証拠不十分とされることがあります。

経営者が方針を決め、部下を注意・指導する上司に、記録を残すように徹底させましょう。

参照:平成28年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する 実態調査報告書

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まとめ

今回は、部下からのパワハラが起こる7つの原因と、企業としてとるべき5つの対策についてご紹介しました。

企業で起こるハラスメントの中で最も多いのは、パワーハラスメントです。

パワハラは主に上司から部下と言うイメージがありますが、部下から上司へのパワハラも近年報告されており、うつ病などの精神疾患を患ってしまう上司も少なくありません。

部下から上司へ起こるハラスメントが起きた場合の背景やポイントを改めてご理解いただき、対策にお役立て頂けたら幸いです。

この記事を監修した人

bon

産業保健師として働く人たちの健康を支えながら、職場環境を良くするために日々奮闘中。
これまでは病棟看護師や健診センター保健師として約10年間の経験を積んできました。産業保健師になってから、心理カウンセラーとメンタルヘルスの資格を取得。好きな言葉は、縁の下の力持ちです。

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